
株式会社Hajimariが2026年6月に本業でIT案件を受けるフリーランス255名に聞いた調査では、直近1年の月額単価が横ばいだった人は86.7%、上がった人は4.7%でした。AIで作業が速くなっても単価が上がらないのは、腕や努力の問題というより、効率化の利益が発注側に移りやすい取引の形によるところが大きいと考えられます。単価を上げる手がかりは、時間ではなく責任を負う範囲で値付けすること、そして受注経路と収入の型を複数持ち、条件の合わない案件を断れる状態をつくることです。フリーランス法・取適法で守られる範囲と守られない範囲も含めて、自分の値付けをどこから変えるかを判断できるように整理しました。
この記事の目次 6項目
調査で見る単価の現状|横ばいが86.7%
まず数字を確認します。冒頭で挙げたHajimariの調査を内訳まで見ると、直近1年の月額単価は横ばいが86.7%、上がったが4.7%、下がったが8.6%でした。上がった人より下がった人のほうが多い結果です。
同じ調査で、AIの使い方は二つに割れています。AIをほとんど使っていない人が47.1%、業務効率化に使っている人も47.1%。AIを組み込んだ開発をしている人は3.1%、AIモデルやエージェントの設計まで手がける人は2.7%でした。AIを使っている135名のうち63.7%は作業スピードが上がったと答えています。速くはなった。それでも単価はほとんど動いていない、というのがこの調査から読み取れる現状です。
| 項目 | 回答 | 割合 |
|---|---|---|
| 直近1年の月額単価 | 横ばい | 86.7% |
| 直近1年の月額単価 | 上がった | 4.7% |
| 直近1年の月額単価 | 下がった | 8.6% |
| AIを理由にした値下げ | 経験あり | 10.2% |
| 単価を上げる打ち手 | わからない | 31.0% |
| AIで仕事が減る不安 | ある | 39.6% |
見落とせないのは、AIを理由に値下げされた経験がある人が10.2%いる点と、単価を上げる打ち手がわからないと答えた人が31.0%いる点です。上げ方がわからないまま、下げる圧力だけが一部で始まっている状態といえます。
この調査は対象がIT案件の本業フリーランスに限られ、回答者は50代が110名、40代が67名と年齢の高い層に寄っています。ライターやデザイナー、副業で受けている人に同じ割合が当てはまるとは限りません。ただ、ランサーズ「フリーランス実態調査 2024年」(調査期間2025年1月)でも、収入に満足している人は32.0%にとどまります。収入面の手応えが乏しい人が多いという点では、別の調査とも食い違いません。
自分の単価が1年以上変わっていないなら、それは調査のうえでは多数派と同じ状態です。腕を磨き直す前に、次に挙げる取引の構造のどれに当てはまっているかを確かめたほうが、打ち手を選びやすくなります。
AIで効率化しても単価が変わらない3つの構造
作業が速くなったのに報酬が変わらない理由は、本人の交渉力だけでは説明できません。取引の形そのものに、効率化の成果が受注者側に残りにくい仕組みがあります。
効率化の利益は発注側に移る
発注側の担当者も、いまはAIで何ができるかを知っています。時間がかかると見られていた作業が早く終わるとわかれば、同じ金額を払い続ける理由は弱くなります。受注者が工夫して生んだ時間の余裕は、価格を据え置くか下げる材料として発注側に回収されやすい。単価が上がらないどころか、横ばいを保てた時点で交渉としては守れている、という見方もできます。
時間で売っていると、速くなるほど売上が減る
時給や稼働時間で請求している場合は単純で、作業時間が短くなれば、そのまま請求額も減ります。月額で契約していても、発注側が稼働時間を前提に金額を決めているなら、次の更新で稼働の見直しを求められる可能性があります。
時間型の報酬は、始めやすく計算もしやすい一方で、効率化の成果を自分に残せません。AIで速くなった人ほど、この形から離れないと単価は上がらない計算になります。
競合も同じツールを持っている
三つ目は競争の側の変化です。Demirci・Hannane・Zhuの研究「Who Is AI Replacing?」は、大手グローバルフリーランスプラットフォームの求人138万件(2021年7月〜2023年7月)を分析し、自動化されやすい職務では1件あたりの入札数が8.57%増えたと報告しています。同じ研究で、ChatGPT公開後のライティング案件の投稿数は30.37%減でした。自動化されやすい仕事では、案件が減る一方で、1件に集まる入札は増えていたことになります。
誰でも同じAIを使える以上、AIを使えること自体は差になりません。公募で入札して受注する形にとどまる限り、効率化した分は価格競争に吸収されやすいと考えられます。
AIで速くなったことを取引先に伝えるべきか
作業時間で請求しているなら、速くなった事実はいずれ見積もりに反映されます。隠すより、空いた時間で何を追加で引き受けられるかを先に示すほうが、価格を守りやすくなります。成果物単位で請求しているなら、作業時間を説明する必要はありません。品質と納期を約束どおりに守ることが価格の根拠になります。
フリーランス法と取適法で守られること、守られないこと
2024年11月1日に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、従業員を使わない個人などが業務委託を受けるときの取引ルールを定めた法律で、会社員が副業で受ける場合も対象になり得ます。発注側には取引条件を書面やメールなどで明示することが求められ、従業員を使う発注事業者には、納品を受けてから60日以内に報酬を支払うことも義務づけられました。一定期間以上続く委託では、一方的な減額や買いたたきも禁止されています。2026年1月1日には旧・下請法を改正した取適法も施行され、発注側の規模などの条件にあてはまる取引では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止されました。両方に違反する行為には、原則としてフリーランス法が優先して適用されます。
ここで押さえておきたいのは、どちらの法律も不当に下げることを禁じているだけで、上げることを義務づけてはいないという点です。
| 場面 | 法律での扱い | 受注者が取れる対応 |
|---|---|---|
| 決めた報酬を、発注後に一方的に減らされる | 一定期間以上続く委託ならフリーランス法で禁止 | 書面で明示された条件をもとに是正を求める |
| 相場より著しく低い額を一方的に押しつけられる | 買いたたきにあたる可能性 | やりとりを記録し、協議を求める |
| 協議に応じてもらえず、一方的に代金を決められる | 取適法の対象取引なら禁止 | 協議の申し入れを文面で残す |
| 作業が速くなったのに単価が据え置かれる | 規制の対象外 | 交渉か、売り物の変更で対応する |
フリーランス白書2026(調査期間2025年11月)では、法施行後に違反と感じた経験がある人が28.5%いましたが、そのうち実際に交渉した人は27.5%でした。白書2025でも、法律の認知度98.7%に対して、取引先との会話で話題になった人は約2割です。法律は知られていても、取引の場ではまだあまり使われていません。会社員の副業で業務委託を受ける場合も含めた確認点は、会社員のまま業務委託で働くとき|フリーランス法で変わったことにまとめています。
契約期間の途中で、AIで速くなったはずだからと報酬を差し引かれたなら、一方的な減額にあたる可能性があります。次の契約で新しい価格を提示されただけなら、それは交渉の問題です。どちらに近いかを見分ける起点は最初に明示された取引条件なので、条件を文面で受け取っていない取引があれば、まずそこから整えてください。
単価が上がる人は何を売っているか
法律が守ってくれるのは下限までです。上を目指すには、値付けの単位そのものを変える必要があります。
手がかりになるのが、先ほどのDemirciらの研究のもう一つの結果です。自動化されやすい職務でも、残った案件では最大予算が5.71%増え、求められるスキルの複雑さも2.18%上がっていました。単純な作業が減った分、残った仕事は難しくなり、予算も上がっている。この変化の受け手になれるかどうかが分かれ目です。
成果物ではなく責任範囲を売る
記事1本、画面1枚、機能1つといった成果物の単位で売っていると、AIで作れるものほど比較されやすくなります。単価を動かしやすいのは、要件の整理、品質の確認、公開後の修正や保守といった、結果に対して責任を負う範囲です。たとえばライティングなら執筆だけでなく構成と編集まで、開発なら実装だけでなく要件定義と運用まで引き受ける。AIで作業時間が短くなった分を、この責任範囲の拡大に充てれば、効率化を値下げではなく値上げの理由として示せるようになります。
前半で見たとおり、Hajimari調査でAIを組み込んだ開発をしている人は3.1%、モデルやエージェントの設計まで手がける人は2.7%しかいません。調査は単価との関係までは示していませんが、少数側にいること自体が、比較されにくさにつながると考えられます。
受注経路と収入の型を複数持つ
株式会社LiKGの調査(2026年2月発表、フリーランス200名)では、仕事を紹介経由で獲得している人が58.5%でした。公募の場では入札が増えて価格が比較されますが、紹介の取引では実績と信頼が前提になるため、条件を話し合う余地は残りやすいと考えられます。
もう一つは、収入を一つの型に頼らないことです。時間で請求する仕事しかないと、単価交渉で強く出られません。成果物の固定報酬、保守や運用の月額、自分で作って売るものなど、型の違う収入があれば、条件の合わない案件を断る判断ができます。この組み立て方はフリーランスの収入が不安定な理由|複数の収入源をつくる現実的な手順で手順として説明しています。
単価交渉の前に確認すること
- 請求の単位が時間・成果物・責任範囲のどれになっているか
- 取引条件を書面やメールで受け取っているか
- AIで短くなった時間を、追加で引き受ける範囲に言い換えられるか
- その取引先がなくなっても、当面の収入が残る状態か
- 受注経路が公募だけになっていないか
四つ目と五つ目で答えに詰まる場合、交渉より先に取引先と経路を増やすほうが順番として現実的です。断れない状態で値上げを切り出しても、相手が応じなければそのまま受けるしかなくなります。
会社員が副業で値付けを始めるときの考え方
これから副業で業務委託を受ける会社員は、最初の値付けで同じ構造に入り込まないようにしておくと、後から単価を上げやすくなります。ランサーズの同調査では年間報酬99万円以下が約7割を占め、副業系・複業系のワーカーは低収入が多い傾向でした。継続案件では最初に決めた条件が基準になりやすく、後から形を変えるには改めて交渉が要ります。
判断の目安は、本業の経験を使えるかどうかです。本業で培った専門性をそのまま使える仕事なら、最初から時間ではなく範囲で見積もります。何を、どこまで、いつまでに引き受けるかを示し、その範囲に価格をつける形です。未経験の分野で実績づくりから始めるなら、時間型や低めの固定報酬で受けるのは自然な選択です。ただしその場合も、2件目以降で範囲を一つずつ広げ、同じ条件のまま続けないようにします。
時間型・成果型・資産型という報酬の決まり方の違いは、報酬の決まり方で副業を分けて考える|時間型・成果型・資産型で詳しく比べています。
副業なら値上げを断られても困らない
会社員の副業は、本業の収入があるぶん、条件の合わない案件を断れる立場にあります。独立後には取りにくい強気の値付けや範囲の提案を試せるのは、副業の段階の利点です。独立を考えている人も、まず副業で単価を上げられるかを確かめておくと、独立後の収入の見通しが立てやすくなります。
次に何をするか|単価の前に収入の型を決める
単価が上がらない原因が構造にある以上、同じ売り方のまま作業を速くしても状況は変わりません。時間で売っているなら、範囲で売る形へ移す。取引先や経路が一つなら、交渉より先に増やす。フリーランスとして続けるか迷っているなら、独立一本ではなく、会社員のまま副業で収入源を足す選択も比べてみてください。2026年のフリーランスを取り巻く変化と選択肢の全体像は、フリーランスは終わりなのか|2026年に起きている3つの変化と、会社員が取れる現実的な選択で整理しています。
副業で何から始めるかを決めるときは、報酬の型と受注経路が自分に合うかを基準に、副業サービスの比較へ進むと選びやすくなります。始める前の準備には、次の記事も使えます。
- エンジニアの副業|案件の受け方3つと、競業・秘密保持の確認点 … IT案件を副業で受けるときの契約上の注意
- 生成AIを副業に使うルール|著作権・クラウドソーシング規約・商用利用の現在地 … AIで効率化するときに確認しておく規約
この記事で参照した資料
- 株式会社Hajimariの調査(2026年6月、本業でIT案件を受けるフリーランス255名)
- Demirci・Hannane・Zhu「Who Is AI Replacing? The Impact of Generative AI on Online Freelancing Platforms」(分析期間2021年7月〜2023年7月)
- 株式会社LiKG「フリーランス実態調査」(2026年2月発表)
- ランサーズ「フリーランス実態調査 2024年」(調査期間2025年1月)
- プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2025」「フリーランス白書2026」(2026年版の調査期間2025年11月)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(2024年11月1日施行)、中小受託取引適正化法(2026年1月1日施行)
この記事に書いた制度や調査の内容は 2026年10月1日 に発表元の資料で確認しました。制度や数値は変わることがあるため、最新の情報は発表元で確認してください。




