
会社を辞めずに独立の準備をするなら、退職の手続きより先に、副業で月10万円の売上を3か月続けられるかを確かめる順番が現実的です。給料がある間に試せば、固定費に追われずに、受注できるか、仕事が続くかを数字で見られます。この記事では、就業規則の確認から辞める判断までを7つの段階に分け、段階ごとに次へ進んでよい基準と期限の決め方を示します。準備の結果、辞めないと決めた場合の考え方も最後に添えました。
この記事の目次 7項目
辞める前に副業で月10万円をつくる理由
独立の準備というと、開業届や屋号、名刺、資金の計算を思い浮かべる人が多いはずです。ただ、それらは独立すると決めたあとでも間に合います。辞める前にしか確かめられないのは、自分の力で仕事を取り、その仕事が続くかどうかのほうです。
会社員のうちは給料で生活費がまかなえているため、副業の売上がゼロの月があっても生活は崩れません。家賃や保険料の支払いに追われて安い案件を断れない、という状況にもなりにくいはずです。条件の悪い仕事を断りながら、どの売り方なら受注できるのかを落ち着いて試せるのは、この期間ならではの利点です。独立したあとに同じ検証をしようとすると、毎月の固定費が判断を急がせます。
月10万円という目安にも理由があります。ランサーズ「フリーランス実態調査 2024年」(2025年1月調査)では、2024年にフリーランスとして報酬を得た人のうち、年間報酬が99万円以下の人が約7割を占め、10万円未満の層がもっとも多いという結果でした。月10万円を1年続けると、この層を抜ける計算です。生活費を全部まかなう額ではありませんが、たまたま1件取れた状態と、売り方が再現できている状態を分ける線としては使えます。
開業や退職の手続きは別の記事に任せ、ここでは辞める前の収入づくりと、次の段階へ進んでよいかの判断基準に絞って書きます。
月10万円は辞めてよい条件ではありません
月10万円は検証の通過点で、独立後の生活を支える額ではありません。この記事では、月10万円が続いたあとにさらに生活費の備えと、売上の伸ばし方の見通しを確認してから辞める判断に進む順番にしています。売上の数字だけで退職日を決めないようにしてください。
辞めるまでの7つの段階と、次へ進む基準
全体の流れを先に示します。段階を飛ばすと、あとで戻る手間が大きくなります。たとえば就業規則を確認しないまま受注した案件が競業にあたると、継続案件ごと手放すことになりかねません。
| 段階 | やること | 次へ進んでよい基準 | 期限の決め方と、進めないとき |
|---|---|---|---|
| 1. 就業規則の確認 | 副業の可否、届出の要否、競業・秘密保持の範囲を読む | やってよい仕事の範囲を一文で説明できる | 読むだけなので最初に済ませる。解釈に迷う条文は社内の窓口に確かめる |
| 2. 本業スキルの棚卸し | 本業でしてきた仕事を、社外の人が買う形に言い換える | 売るものを一つに絞り、価格の案がある | 書き出しに時間をかけすぎない。決めきれなければ候補を一つ仮に選び、段階3で試す |
| 3. 最初の受注 | 紹介と公募の両方で声をかける | 社外から1件、報酬を受け取る | 期間ではなく提案の数で区切る。決めた数を出しても取れなければ段階2に戻る |
| 4. 継続案件2〜3本 | 単発で終わらせず、次の依頼につなげる | 2社以上から繰り返し依頼がある | 単発が続くなら、納品時に次の依頼を打診しているかを見直す |
| 5. 月10万円が3か月続く | 売上と作業時間を毎月記録する | 3か月連続で月10万円に届き、1社に偏っていない | 届かない月が出たら数え直す。続けて届かなければ段階4に戻る |
| 6. 生活費12か月分 | 独立後に増える支出を含めて生活費を計算し直す | 12か月分を手元資金として確保できている | 毎月の積立額から、そろう月を逆算して期限にする |
| 7. 辞める判断 | 伸ばし方の見通しを確認し、退職か継続かを決める | 辞める理由を売上以外の言葉でも説明できる | 退職日は資金がそろってから決める。説明できなければ会社員のまま続ける |
期限は段階ごとに自分で決めておきます。長さは本業の忙しさで変わりますが、決めずに進めると、最初の受注が取れないまま半端に続く状態になりがちです。期限を過ぎても次の段階に進めないときは、努力の量を増やす前に、表の右端に書いた戻り先へ戻り、売るものや売り先を変えたほうが早く進みます。
最初の受注まで|就業規則・棚卸し・受注経路
就業規則で確認するのは可否だけではない
副業の扱いは会社ごとに就業規則で定められ、許可制や届出制をとる会社もあります。認められているかどうかに加えて、届出が必要か、本業と同じ業種の仕事が制限されているか、秘密保持の範囲がどこまでかを読みます。本業の取引先から直接仕事を受ける、本業で得た資料や手法をそのまま使う、といった形は、副業が許可されている会社でも問題になりやすい部分です。エンジニア職の確認点はエンジニアの副業|案件の受け方3つと、競業・秘密保持の確認点にまとめました。
受ける側の権利を知っていれば、条件の悪い案件も見分けやすいはずです。2024年11月施行のフリーランス法では、一人で業務委託を受ける会社員の副業も保護の対象になり得ます。発注側は取引条件を書面やメールなどで示す必要があり、従業員を使う事業者が発注する場合は、60日以内の報酬支払いも義務です。契約前に条件が示されない案件は、それだけで見送る理由になります。
棚卸しは職務経歴ではなく、買い手の言葉で書く
会社で積んだ経験は、独立の元手として最も確かなものです。2026年2月に株式会社LiKGが公表した調査(フリーランス200名)を見ると、会社員を経験してから独立した人が74.5%を占め、その中の約半数は企業で10年以上働いていました。会社員としての経歴を土台に独立する人が多数派です。
ただし、職務経歴をそのまま並べても仕事にはなりません。「営業企画を担当」ではなく「営業資料の構成と数字の裏付けを、1本単位で引き受ける」のように、相手が発注できる単位に切り出します。候補が複数出たら、本業で同僚から頼まれることが多いものを優先すると、品質を説明しやすくなります。
受注経路は紹介と公募の両方を使う
同じLiKGの調査では、案件獲得の経路として紹介経由が58.5%でした。回答者の半数を超える人が、人のつながりから仕事を得ている計算です。会社員のうちに頼れる紹介元がある人は、そこから当たるのが早道でしょう。一方で、紹介だけに頼ると件数が伸びにくいため、クラウドソーシングなどの公募でも提案を出し、どちらの経路で受注しやすいかを比べておきます。公募で通らない場合は、提案文より先に、売るものの切り出し方を見直すと改善しやすくなります。
継続案件と月10万円の3か月で見ること
最初の1件が取れたら、次に目指すのは件数を増やすことより、同じ相手から次の依頼が来る状態をつくることです。単発の案件を毎月探し続ける形では、本業と並行する時間がすぐに足りなくなります。2〜3社から繰り返し依頼がある状態になって初めて、月の売上が読めるようになります。
取引先の数にこだわるのは、1社に頼ると、その会社の都合ひとつで売上がゼロになるからです。プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の「フリーランス白書2025」によると、世帯収入の8割以上を自分の収入で担っている人が45.7%いました。独立後は副業のときと違い、その1社の判断が家計全体に響きます。会社員のうちに2社目、3社目の取引先をつくっておくことが、そのまま独立後の備えです。
月10万円を3か月続ける段階では、売上と一緒に作業時間を記録します。10万円に届いていても、本業の休日をすべて使って届いているなら、独立して時間を倍にしても売上は倍程度までしか伸びません。時間あたりで請ける仕事なのか、成果物の単位で請ける仕事なのかによって、伸び方の上限が変わるためです。時間型の案件だけで届いている場合は、成果物の単位で見積もる案件を一つ混ぜておくと、独立後の伸ばし方を試せます。
月10万円の中身を確認する目安
- 3か月とも月10万円に届いている(1か月だけ大きい案件で届いた月を含めない)
- 売上の過半を1社に頼っていない
- 作業時間を記録しており、時間あたりの売上が下がっていない
- 契約条件が書面等で示され、支払いが約束どおりに入っている
- 確定申告と住民税の手続きを済ませた、または準備ができている
最後の項目について補足します。確定申告が必要になるのは、給与を1か所から受け取る会社員なら、副業の所得が年20万円を超えたときです。売上が月10万円で続いていれば、経費を差し引いてもこの水準を超える場合が多いはずです。所得がその水準を下回る年も住民税の申告は要るので、手順は副業の確定申告のやり方|会社員の準備・スマホ申告・住民税の6ステップで確認してください。申告まで一度経験しておくと、独立後の事務の重さも見積もれます。
生活費12か月分と、辞める判断の分かれ目
月10万円が3か月続いたら、次は手元資金です。独立すると、それまで会社が負担していた社会保険料の一部や、パソコンや通信費など会社が用意していた仕事道具の費用も自分で払うことになります。見落としやすいのは、退職した翌年の住民税と国民健康保険料が、会社員だった年の所得をもとに計算される点です。売上がまだ安定しない時期に、会社員時代の収入に応じた請求が届くため、この分も含めて生活費を計算し直し、その12か月分を用意します。
12か月分を目安にするのは、独立直後に売上が会社員時代の給料に届かない期間があっても、条件の悪い案件を受けずに済むからです。フリーランス白書2026(2025年11月調査)では、社会保険制度に安心感を持てている人は6.7%しかおらず、68.2%が不安を感じていました。政府への要望でも、インボイス制度への対策を求める声が62.7%と最も多く挙がっています。社会保険もインボイスも、会社員のうちは意識する場面が少なかった負担です。12か月分の資金は、この負担に慣れるまでの時間を買うものと考えると、額の意味がわかりやすくなります。
資金がそろったら、辞めるかどうかを決めます。判断の分かれ目を表にしました。
| 今の状態 | 判断 |
|---|---|
| 月10万円が3か月続き、本業の時間を移せば受けられる依頼が待っている | 辞める判断に進んでよい状態 |
| 月10万円は続いているが、増やせるのは作業時間を足した分だけ | 単価か報酬の型を変えるまで会社員のまま続ける |
| 売上の大半が1社から来ている | 取引先を増やしてから判断する |
| 月10万円に届いたり届かなかったりする | 段階4に戻り、継続案件を固める |
| 売上は十分だが、生活費12か月分がまだない | 資金がそろうまで退職日を決めない |
表のいちばん上に当てはまるなら、退職や開業の手続きに進みます。それ以外の行に当てはまる場合、足りないのは資金か取引先か売り方のどれかで、どれも会社員のまま補えます。
辞める理由を売上以外の言葉で説明できるか
LiKGの調査では、フリーランスの57.5%が収入の不安定さに不安を感じていました。数字の条件をそろえても、この不安は残ります。そのうえで辞める理由を、時間の使い方や仕事の選び方など、売上以外の言葉で説明できるかを確かめてください。説明できない場合は、会社員のまま副業を伸ばす道のほうが合っている可能性があります。
辞めないという結論も準備の成果になる
ここまでの段階を踏むと、辞めないほうがよいという結論になる人も出てきます。それは準備が無駄になったということではありません。月10万円の副業収入があり、本業の給料もある状態は、収入源が二つある状態です。1社に収入を頼るフリーランスよりも、家計の安定という点では有利な面があります。
独立したあとに会社員に戻る人もいます。理由と、戻る前に確かめることはフリーランスをやめて会社員に戻る人の理由|戻る前に副業で確かめておくことにまとめました。行き来ができる以上、退職は一度きりの賭けではありません。それでも、辞めずに検証できることを先に済ませておけば、戻るかどうかで迷う場面は減らせます。
辞めたい理由が副業に使える時間の不足なら、独立の前に、本業の働き方を見直す余地がないかを確かめます。辞めたい理由が今の職場そのものなら、独立と転職を同じ表に並べて比べるほうが判断を誤りにくいはずです。独立か現状維持かの二択にしないことで、この段階で取れる選択肢が広がります。
今週から始めること
まだ何も始めていないなら、今週は就業規則を読み、本業で人から頼まれることを書き出すところまでで十分です。書き出したことのうち社外の人が買いそうなものを一つ選び、売り先を探します。すでに副業の売上がある人は、この3か月の売上と作業時間を表にして、段階4と段階5のどちらにいるかを確かめてください。
受注経路を探す段階では、副業サービスの比較で、本業のスキルをそのまま出せる経路と報酬の受け取り方の違いを確認しておくと、最初の受注までの時間を短くできます。辞める判断が近づいた人は、次の記事で手続きと形態を確認してください。
- 副業から起業へ移るとき|判断の材料と手続きの順番 … 退職から開業までの手続きを順番に確認できます
- 開業届と青色申告は副業でも出すべきか … 会社員のうちに出しておくかどうかの判断材料です
- 副業の法人化はいつ考える? … 個人で続けるか法人にするかの目安です
- フリーランスは終わりなのか|2026年に起きている3つの変化と、会社員が取れる現実的な選択 … このテーマ全体を俯瞰する親記事
この記事で参照した資料
- ランサーズ「フリーランス実態調査 2024年」(調査期間2025年1月16〜20日、有効回答2,929名)
- プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2025」
- プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2026」(調査期間2025年11月)
- 株式会社LiKG「フリーランス実態調査」(2026年2月発表、フリーランス200名)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(2024年11月1日施行)
この記事に書いた制度や調査の内容は 2026年10月1日 に発表元の資料で確認しました。制度や数値は変わることがあるため、最新の情報は発表元で確認してください。




