
フリーランスから会社員に戻りたくなる理由は、収入の波、社会保険の手薄さ、インボイスへの対応など、調査で多くのフリーランスが不安として挙げている項目とほぼ重なります。株式会社LiKGの調査(2026年2月発表)ではフリーランスの74.5%が会社員経験者で、戻ることは来た道を引き返す選択の一つにすぎません。判断の分かれ目は悩みの種類で、収入の水準や営業の問題なら戻る前に単価と受注経路を見直す余地があり、孤独や体調、働けない期間への備えが主な理由なら戻る判断には十分な根拠があります。この記事を読むと、自分の悩みがどちらに当たるのか、戻るときに何を手続きし、何を副業として残せるのかを判断できます。
この記事の目次 6項目
戻りたくなる理由は、調査に出ている不安とほぼ重なる
この記事で参照した調査には、フリーランスをやめて会社員に戻った人だけを対象にしたものは含まれていません。そこで、いま働いているフリーランスが何に不安を感じているかを見ていきます。戻る動機になりやすいのは、続けている人が日常的に抱えている不安のほうだからです。
収入の波と、家計を一人で支える重さ
株式会社LiKGの「フリーランス実態調査」(2026年2月発表、フリーランス200名)では、不安の内容として「収入の不安定さ」を挙げた人が57.5%でした。同じ調査で、年収400万円以下の人は52%です。
不安定さが生活に直結するかどうかは、家計の構造で変わります。プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の「フリーランス白書2025」では、自身の収入が世帯収入の8割以上を占める人が45.7%でした。家計をほぼ一人で支えている場合、売上がない月はそのまま生活費の不足になります。共働きで、もう一方に固定給があるなら、同じ収入の波でも受け止め方はかなり違います。
社会保険の手薄さ
同協会の「フリーランス白書2026」(調査期間2025年11月)では、社会保険制度に不安を感じる人が68.2%、安心している人は6.7%でした。加入条件を満たす会社員は厚生年金と勤務先の健康保険に入り、保険料は会社と分けて負担します。フリーランスは国民年金と国民健康保険が基本で、国民健康保険には会社の健康保険にある傷病手当金が原則としてありません。病気やけがで働けない期間の収入を、自分で用意しておく必要があるということです。
インボイスへの対応
2023年10月に始まったインボイス制度では、免税事業者のフリーランスが取引先から登録を求められる場面があります。登録すれば消費税の申告と納税が加わり、登録しなければ取引条件の見直しを求められることもある。どちらを選んでも負担は残ります。白書2026で政府に早急な対策を求める問題を聞いた項目でも、インボイス制度が62.7%で1位となり、社会保険の手薄さ(43.2%)や物価高(42.3%)を上回りました。個人の仕事をすべて閉じて会社員に戻るなら、この判断そのものがなくなります。
数字を読むときの注意
ここに挙げた割合は、不安を感じながらも働き続けている人の回答です。不安があることは、やめる理由として十分ではありません。判断の材料になるのは、その不安が自分の努力や工夫で小さくできるものか、個人ではどうにもならないものか、という区別です。
会社員に戻ることは失敗ではない
LiKGの同じ調査では、回答者の74.5%に会社員の経験があり、その約半数は企業で10年以上働いてから独立していました。フリーランスの多くは会社員から来た人であり、会社員に戻るのは、すでに一度通った道を逆向きに歩くことです。
働き方の全体を見ても、会社員とフリーランスはきれいに分かれていません。内閣官房の「フリーランス実態調査結果」(2020年)では、本業・副業を含むフリーランス462万人のうち、本業が214万人、副業が248万人でした。副業としてフリーランスの仕事をしている人のほうが、本業のフリーランスより多いという数字です。会社員に戻っても、個人で仕事を受ける立場を一部残す形は十分にあり得ます。
独立していた期間に身についたものも、戻った後に残ります。見積もりを出す、契約条件を確認する、入金を管理する、確定申告をする。会社員として働くだけでは経験しにくい実務です。戻るかどうかで迷っているなら、失敗かどうかではなく、何を持ち帰り、何を手放すかで考えたほうが判断しやすくなります。
戻る前に、何が問題なのかを切り分ける
戻りたいと感じる理由は、大きく3つに分けられます。収入の水準の問題、仕事が途切れる営業の問題、孤独や体調の問題です。どれに当たるかで、会社員に戻ることが解決策になるかどうかが変わります。
| 問題の種類 | 見分けるための問い | 会社員に戻ると | 戻る前に試せること |
|---|---|---|---|
| 収入の水準 | 仕事は途切れないのに、手元に残る額が足りないか | 固定給になり波は消える。水準は転職先しだい | 単価の見直し、時間型以外の仕事を足す |
| 営業・受注 | 案件の切れ目に、次の仕事が見つからない月があるか | 営業の負担はなくなる | 紹介で仕事が来る経路をつくる、取引先を増やす |
| 孤独・体調 | 一人で働くこと自体がつらいか、体調に不安があるか | 同僚と組織があり、勤務先の健康保険の傷病手当金も原則として対象になる | 個人では解消しにくい。戻る判断は合理的 |
収入の水準が問題の場合、まず確かめたいのは単価を上げる方法を試したかどうかです。株式会社Hajimariの調査(2026年6月、本業でIT案件を受けるフリーランス255名)では、単価を上げる打ち手が「わからない」と答えた人が31.0%でした。打ち手を試していないまま戻るなら、問題の正体がわからないまま働き方だけを変えることになります。一方で、白書2026では月間稼働140時間以上のフルタイム相当で働く人が48.5%でした。すでにフルタイムで働いているなら、稼働を増やして収入を補う余地はほとんどありません。単価の見直しを試しても届かないなら、戻る理由として十分です。
営業の問題なら、受注経路を見直します。LiKGの調査では、58.5%が紹介経由で案件を得ていました。公募の案件に応募するだけで毎月の仕事を埋めている状態は、案件が減った時期にそのまま収入が減ります。紹介で仕事が来る取引先が一社もないなら、戻るか続けるかを決める前に、まずそこを弱点として認識しておくことです。収入源を複数にする具体的な手順は、フリーランスの収入が不安定な理由|複数の収入源をつくる現実的な手順で順を追って説明しました。
孤独や体調の問題は、個人の工夫で解消するのが難しい領域です。白書2025では、満足度が低い項目として収入のほかに社会的地位と人脈形成が挙がっていました。相談相手がいない、評価してくれる上司がいない、という状態を長く続けるのがつらいなら、組織に戻る理由として筋が通っています。
戻るかどうかの判断の目安
- 単価の交渉や値付けの見直しを試していないなら、期間を区切って試してから判断する
- 紹介で仕事をくれる取引先がなく、公募だけで埋めているなら、戻った後に個人の仕事を続けるのは難しい
- 体調面の不安があり、働けない期間の備えがないなら、戻ることを優先してよい
- 一人で働くこと自体が負担なら、収入が足りていても戻る理由になる
戻ると決めたら確認する手続きとお金
会社員に戻るときの手続きは、個人の仕事を完全に閉じるか、副業として一部を続けるかで分かれます。
個人事業を閉じる場合
税務署に個人事業の廃業の届出を出します。青色申告やインボイスの登録をしていた場合は、あわせて必要になる届出がないかを税務署で確認しておくと安心です。年金は勤務先が厚生年金の手続きをしますが、国民健康保険の脱退は自分で市区町村に届け出る必要があり、勤務先の健康保険に加入したことがわかる書類を受け取ってから手続きすると漏れが減ります。
見落としやすいのはお金の時期です。年の途中で就職した年は、勤務先で年末調整を受けても、フリーランスだった期間の事業所得はそこでは精算されないため、原則として自分で確定申告をします。住民税も前年の所得にかかるので、戻った直後は前年の事業所得に対する住民税の支払いが続きます。給与が入り始めても、この支払いに充てる資金は手元に残しておいてください。
副業として続ける場合
まず確認するのは転職先の就業規則です。副業が認められているか、届出や許可が必要か、競業にあたる仕事の制限があるか。入社後に知ると取引先に迷惑をかけるため、内定の段階で確認しておきます。
取引の面では、会社員の副業でも、従業員を使わずに業務委託を受けるならフリーランス法の対象になり得ます。2024年11月1日に施行されたこの法律で、発注側は取引条件を書面等で明示しなければならず、従業員を使う事業者からの発注なら60日以内の報酬支払いも義務になります。副業で業務委託を受けるときの扱いと契約前の確認点は、会社員のまま業務委託で働くとき|フリーランス法で変わったことにまとめたとおりです。
税金は、給与を1か所から受けている会社員なら、副業の所得が年20万円を超えると確定申告が必要です。手順は副業の確定申告のやり方|会社員の準備・スマホ申告・住民税の6ステップを参照してください。副業分の住民税を勤務先の給与から天引きせず自分で納めたい場合は、副業の住民税を自分で納付にする方法で選び方を確認できます。
閉じるか続けるかの分かれ目
紹介で仕事をくれる取引先が残っていて、週末や平日夜の作業量で納められるなら、副業として続ける形が向いています。収入の柱を一つ残しておけば、会社員に戻った後に別の道を選びたくなったときの足場になります。反対に、残っている仕事が公募の案件だけなら、無理に続けず一度閉じて、本業に慣れてから始め直すほうが負担の小さい選択です。
これから独立する人は、戻る可能性を前提に副業で試す
ここまでの戻る理由を見直すと、多くは独立する前に確かめられるものです。収入の波は、副業の売上を月ごとに記録すれば見えてきます。営業の問題なら、副業の段階で紹介による依頼が来るかどうかが目安です。一人で作業を続けられるかどうかも、週末の作業時間でおおよその見当がつきます。
会社員のうちに確かめにくいのは、社会保険の手薄さです。会社の健康保険と厚生年金に守られている間は、その差を実感できません。退職後の健康保険は、国民健康保険に入るか、条件を満たせば在職中の健康保険を任意継続するかを選ぶことになりますが、任意継続には手続きの期限と加入できる期間の上限があり、保険料の会社負担分もなくなります。どちらを選んでも、働けない期間の収入は原則として自分で備えることになるため、独立前に生活費の備えをどこまで持つかを決めておく必要があります。
LiKGの調査で、10年以上の企業経験を経て独立した人が約半数いたことも、判断の材料になります。本業で積み上げた実績を個人の仕事に転用できるかどうかは、副業で一件受けてみると見当がつきます。本業の経験を活かした副業で受注できないなら、独立してもその状況はすぐには変わりません。受注できて、紹介で次の依頼が来るようになったら、独立を検討する段階に入ったと考えられます。
辞める前に副業で収入をつくる順番は会社を辞めずに独立の準備をする方法|副業で先に月10万円をつくる順番で扱っています。副業で確かめてから辞める順番なら、確かめている間は会社員の経歴が途切れません。独立した後に戻るか続けるかで迷ったときも、副業期間に記録した売上と受注経路がそのまま判断材料になります。
次にすること|副業で何から始めるか
いまフリーランスで戻るか迷っているなら、表の3つの問題のどれに当たるかを書き出し、収入と営業の問題であれば単価と受注経路を先に試します。孤独や体調の問題なら、戻る方向で求人を見始めてかまいません。戻る場合も、紹介でつながっている取引先があれば副業として残す余地を検討します。
会社員で独立を考えているなら、まず副業で小さな売上を立て、収入の波と受注経路を自分の数字で確かめます。最初の目標は、毎月の売上・費用・作業時間を記録できる規模で十分です。始め方が決まっていない場合は、副業サービスの比較で、自分の本業の経験を使えるサービスの種類を確認してから選ぶと遠回りが減ります。
- 会社員が副業で月5万円を目指すには|売上・費用・時間から立てる … 最初の目標額を、売上と作業時間から逆算する
- 会社を辞めずに独立の準備をする方法|副業で先に月10万円をつくる順番 … 戻る可能性も含めて、辞める前に決めておく基準
- フリーランスは終わりなのか|2026年に起きている3つの変化と、会社員が取れる現実的な選択 … このテーマ全体を俯瞰する親記事
この記事で参照した資料
- 株式会社LiKG「フリーランス実態調査」(2026年2月発表)
- プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2025」
- プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2026」(調査期間2025年11月)
- 内閣官房「フリーランス実態調査結果」(2020年)
- 株式会社Hajimari 本業でIT案件を受けるフリーランスを対象にした調査(2026年6月、255名)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法、2024年11月1日施行)
この記事に書いた制度や調査の内容は 2026年10月1日 に発表元の資料で確認しました。制度や数値は変わることがあるため、最新の情報は発表元で確認してください。




